松本人志の性加害疑惑をめぐる報道が始まったのはちょうど昨年の今頃だった。松本が復帰への道筋をつけたかと思ったら、今度は入れ替わるように中居正広に性的トラブルが浮上した。謎多き「9000万円スキャンダル」を元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士が解説する。
守秘義務をつけても「安心できない」のが実情
20代の女性に9000万円もの高額の示談金を支払ったと報道される中、中居正広氏の有料会員サイトには新たに「このたびは、大変ご迷惑をおかけしております」というコメントが掲載された。深刻な事態が起きているのは確かなようだが、私はその詳細に言及できる立場にはない。そこで昨年までテレビ局で法務部長をしていた人間として、一般論を書かせて頂く。 まず思うのは「守秘義務では何も解決しない」ということだ。 中居氏側は女性と「賠償責任を負う守秘義務」を結んだと報じられている。だが実は「守秘義務」は万能ではない。封印したと思った内容が報道される事態になっても、報道機関が取材源を明かすことはないので、秘密がどうやって外に出たかを突き止めるのは難しい。 また秘密の中身が「不祥事」だった場合、報じることには社会的意義がある。このため「守秘義務違反だ」と責めても「もみ消し」として更なるイメージダウンにつながるので、結局身動きが取れないことが多い。私が弁護士として「守秘義務さえつけておけば大丈夫ですよね」と依頼者から聞かれたときには、いつも「大丈夫ではないです」とお答えしている。
ジャニー喜多川氏の被害者が話していたこと
では秘密が漏れないようにトラブルを解決するためにはどうしたらいいのか。答えは一つ。トラブルを「本当に」解決することだ。被害者や周囲が心から納得する「本当の解決」になれば、事態が広まることは自然となくなる。 今回は「本当の解決」に至っていたのか。我が国では心の傷に対する賠償金額の認定が十分ではないことが多い。交通事故の際に弁護士が参考にする「損害賠償額算定基準」でも、「一家の支柱」を亡くした遺族の慰謝料が2800万円。そうした我が国の実情の中では、報道されている「9000万円」という示談金自体は高額の部類に入るとも考えられる。 だがお金だけで心の傷は消せるのか。旧ジャニーズ事務所のジャニー喜多川氏による性加害問題を取材したとき、被害者の方々は「何十年経とうとも被害を受けたときの感触は身体に残り続け、薄れることはない」と話されていた。心の傷は時間とともに消えるどころかひどくなっていくこともある。一回お金を振り込んでスパッと終わる話ではない。